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世界初!細胞核機能を持つ構造体を人工細胞内に再現

  • 執筆者の写真: luyang tian
    luyang tian
  • 5月23日
  • 読了時間: 7分

~生命をつくる最前線、合成生物学の革新~

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所(神奈川県海老名市、理事長 北森 武彦)の高森 翔 研究員らは、国立大学法人東京大学(東京都文京区本郷、総長 藤井 輝夫)の竹内 昌治 教授と、大 杉 美穂 教授、国立研究開発法人理化学研究所(埼玉県和光市、理事長 五神 真)の新冨 圭史 専任研 究員らと共同で、脂質二重膜からなる人工細胞モデルであるリポソームの内部に細胞核を構築することに成 功しました。


【ポイント】

  • カエル卵の抽出液を用い、世界で初めてリポソーム内に細胞核を構築しました。

  • リポソーム内で、核の内部にDNAが収納され、核内へのタンパク質の輸送が起こることを実証しまし た。

  • 真核細胞に近い人工細胞の実現に向け た重要なマイルストーンであり、ボトムアッ プ合成生物学・人工染色体技術などへの 応用が期待されます。

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【概要】

近年、細胞を模倣した構造や機能を持った人工 細胞を実験室でボトムアップ構築する研究(ボトム アップ合成生物学)が注目されています。中でも、 真核細胞の遺伝情報の保持・発現を担う「細胞核」の構築は大きな課題でした。これまで、細胞核の構築は 主にアフリカツメガエル卵の抽出液を用いて試験管内や油中水滴内で行われていましたが、リポソーム内で の構築は達成されていませんでした。

研究チームは、リポソームの内部において細胞核の構築に世界で初めて成功しました。カエル卵抽出液を リポソーム内に封入し、そこに精子由来のDNAを添加することで、DNAを包み込む核膜を形成しました。さ らに、核膜孔複合体の形成や、それを介したタンパク質の核内への能動輸送を顕微鏡下で観察し、構造だ けでなく機能も備えた人工細胞核の構築を実証しました。本研究成果は、従来困難とされてきたリポソーム 内での核構築を可能とするものであり、ボトムアップ合成生物学の分野において、真核細胞に近い人工細胞 構築の道を開く画期的なステップとして位置づけられます(詳細は添付資料参照)。


本研究成果は、2025年5月20日(火)(米国時間)に米国WILEY社から出版されるsmall誌に掲載されま す。

論文名:Nuclear assembly in giant unilamellar vesicles encapsulating Xenopus egg extract 著者:Sho Takamori, Hisatoshi Mimura, Toshihisa Osaki, Tomo Kondo, Miyuki Shintomi, Keishi Shintomi, Miho Ohsugi, and Shoji Takeuchi

注意事項:本リリースの内容は、2025年5月20日0時(日本時間)以降に報道可能です。


【問い合わせ先】

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所 研究開発部・研究推進課 古賀・後藤

川崎市高津区坂戸3-2-1 TEL: 044-819-2034 FAX: 044-819-2026 Email: koga@kistec.jp


東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授 竹内 昌治(たけうち しょうじ)

東京都文京区本郷7-3-1 TEL: 03-5841-6488 Email: takeuchi@hybrid.t.u-tokyo.ac.jp



添付資料

地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所

国立大学法人東京大学

国立研究開発法人理化学研究所

世界初!細胞核機能を持つ構造体を人工細胞内に再現

~生命をつくる最前線、合成生物学の革新~

【ポイント】

  • カエル卵の抽出液を用い、世界で初めてリポソーム内に細胞核を構築しました。

  • リポソーム内で、核の内部にDNAが収納され、核内へのタンパク質の輸送が起こることを実証しまし た。

  • 真核細胞に近い人工細胞の実現に向けた重要なマイルストーンであり、ボトムアップ合成生物学・人 工染色体技術などへの応用が期待されます。

【研究の背景】

近年、細胞を模倣した構造や機能を持った人工細胞をボトムアップのアプローチを用いて実験室内で再構 築する研究が注目されています。中でも、遺伝情報の保持・発現という真核細胞における生命機能の根幹を 担う「細胞核」の再構築は、真核細胞様人工細胞を構築する上で大きな課題でした。これまで細胞核の構築 には、試験管内で核形成を再現できるカエル卵抽出液(注1)を用いる方法が用いられてきました。先行研究 では、この卵抽出液を用いて、試験管内や油中水滴内での細胞核形成が報告されています。しかし、脂質 二重膜からなる人工細胞モデルであるリポソーム(注2)内部での細胞核構築は達成されていませんでした。 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所人工細胞膜システムグループの高森翔研究員らは、 国立大学法人東京大学大学院情報理工学系研究科の竹内昌治教授と同大学院総合文化研究科の大杉 美穂教授、国立研究開発法人理化学研究所開拓研究所の新冨圭史専任研究員らと共同でこの課題に取り 組み、リポソーム内部での細胞核構築へ向けた研究を行いました。


【研究の成果】

研究チームは、カエル卵の抽出液を内封したリポソームを作製し、その内部での細胞核の構築に成功しま した。まず、界面通過法(注3)というリポソーム作製手法を用いて、卵抽出液をリポソームに内封しました(図 1)。この卵抽出液内封リポソームの作製効率を向上させるために、脂質分散オイルへのクロロホルム添加、 および、油水界面への脂質吸着のための待ち時間を検討し、界面通過法プロトコルを改良しました。さらに、 リポソーム作製時に卵抽出液にカエル精子由来のDNAを添加し、リポソーム内部においてDNAの周りに 核膜を形成させることに成功しました(図2)。蛍光顕微鏡を用いた解析によって、リポソーム内部の核に核膜 孔複合体(核-細胞質間における能動的な物質輸送を担うゲート)が形成されていること、核移行シグナルを 持つ蛍光タンパク質が核膜孔複合体を通過して核内へ輸送されることを証明しました(図3)。これらの結果 から、リポソームの内部にDNAを含みかつその表面に機能的な核膜孔複合体を持った「細胞核」が構築で きたと結論しました。


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図1.界面通過法を用いたカエル卵抽出液内封リポソームの作製.


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図2.カエル卵抽出液を内封したリポソーム内での細胞核構築.

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図3.細胞核を内部に含むリポソームの免疫染色画像.


【社会に対する成果の還元、今後の展望】

今回の研究成果は、未来の医療やバイオテクノロジーを支える基盤技術として、大きな可能性を秘めてい ます。特に、リポソームという人工細胞モデルの内部で、細胞核が担う“内部の区画化”や“物質輸送”といっ た高度な機能を再現できたことは、ボトムアップ合成生物学において重要な進展です。この技術を応用する ことで、将来的には人工ゲノムや人工染色体を細胞内に導入する新しい手法が生まれるかもしれません。ま た、本物の真核細胞に近い性質を持つ「人工真核細胞」の開発も、さらに加速することが期待されます。さら にこの成果は、複数の細胞小器官を同時に再現する技術にもつながります。たとえば、再生医療のための機 能性細胞の構築や、創薬に活用できるモデル細胞の開発など、医療やライフサイエンスの新しい道を切り開 く可能性があります。こうした人工細胞の研究が進むことで、生命のしくみを深く理解すると同時に、未来の 医療技術やバイオものづくりの革新につながることが期待されます。

【用語】

注1. カエル卵抽出液:アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵を遠心分離して得られる抽出液。これを 用いて、受精や細胞分裂周期の進行に伴う生化学反応を試験管内で再現できる。1983年にカナ ダ・トロント大学の増井禎夫博士(1998年 アルバート・ラスカー基礎医学研究賞 受賞者)によって 開発され、その後の核と染色体の研究の飛躍的な発展に大きく貢献した。

注2. リポソーム:脂質二重膜小胞。外殻構造として細胞膜と同じ脂質二重膜を持つため、人工細胞モデ ルとして広く用いられている。 注3. 界面通過法:水相と油相の界面に形成した脂質単分子膜を重ねてリポソームを作製する方法。 様々な分子のリポソーム内封効率が比較的高い手法として広く用いられている。

【論文情報】

雑誌名:Small

題名:Nuclear assembly in giant unilamellar vesicles encapsulating Xenopus egg extract

著者名:Sho Takamori, Hisatoshi Mimura, Toshihisa Osaki, Tomo Kondo, Miyuki Shintomi, Keishi Shintomi, Miho Ohsugi, and Shoji Takeuchi

DOI: 10.1002/smll.202412126

 
 
 

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